魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
最初は冷めた感情でラスを汚そうとしていたゼブルだったが――ラスを組み敷いているうちに、だんだん本気になってしまって息が荒くなるのを感じていた。


「お前…魔法でも使っているのか?下等な人間の分際で俺を惑わそうとするとは…!」


「やだ、コー!コー、助けて…!!」


よくよく間近で見るとラスは美しく若く、少しあどけなさが残る美貌に、目を見張る肢体…

理想もプライドも高いゼブルは完璧な女しか求めたことが無く、そういった点ではラスは3本の指に入る完璧な女と言えた。

抵抗されればされるほど燃え上がり、涙を零してやめてと叫ぶラスの四肢の力を封じ込めるために腹に手をあてて魔法を使おうとした時――



「!?お前……!身籠っているのか…!」


「…え…?」


「コハク様の子をまた身籠ったというのか!?くそ…妻や子などあの方には必要ない!親子諸共俺が今すぐ殺してや…」



――妊娠している、と告げられたラスは抵抗することを忘れて見開いた瞳で怒り狂うゼブルを見つめた。

コハクと新婚旅行に出たのはいつの頃だっただろうか…?

その時に妊娠したのだろうか?


コハクとの、大切な愛の証を――?


「や、めて…!やめて、私の赤ちゃん…!」


腹に手をあてて庇おうとしたラスと、馬乗りになったまま左手に白球を生み出したゼブルがラスに向けて放とうとした時――何故かその白球は幻のように消え失せてゼブルの瞳が…床を見つめた。


「俺の…手が…!」


「てめえ…なに俺の天使ちゃんに乗っかってんだ…?ぶっ殺す。その両手両足切り落としてやるからな!」


「コー…!コー!」


ここを嗅ぎつけられるとは思いもせず、またいつの間にか切り取られた左腕の傷口が激痛を呼んでうずくまりながら息せき切って駆けこんできたコハクを愛憎の眼差しで睨んだ。

その腕にはルゥが抱かれて、首に下がっている水晶がぴかぴかと点滅しながら発光していて、この赤ん坊がここまで導いて来たのかと思うとぞっとしてうずくまる。


「コー、私の赤ちゃん…!私とコーの…!」


「…え?俺とチビの赤ちゃんって……ルゥじゃなくてか…?」


遅れてやって来たデスが脚で蹴ってゼブルを床に落とすと、ローブを脱いでラスの身体にかけてやる。


コハクは呆然としていた。

第2子を身籠ったラスにふらふらと近寄り、無言のままぎゅうっとラスを抱きしめた。
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