魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
丁寧に髪と身体を洗ってやってバスタブに身を沈めさせると、ようやく少しだけ落ち着いた表情を見せた。

ここへ戻って来てから一歩も外に出ていないラスを慮ったコハクは、後ろ抱っこをしてやりながら桜色のマニキュアを爪に塗ってやりながら外へと誘う。


「なあ、ルゥと一緒に屋上に行こうぜ。今満開でさ、蜜がたっぷり採れるぞ」


「……行かない…」


「…チビの願いは全部叶えてやりてえけど、このままじゃ駄目だってわかってるよな?チビ…身体まで壊す気か?ルゥの弟が腹ん中に居るのに?」


「……ゃだ…ちゃんと産みたい…」


「じゃあ行こう。外に出て気分転換しよう。今日くらい少しだけアルコール許してやるよ。果実酒だけど」


十分身体が温まると、長い金の髪をバレッタで留めて淡い水色のワンピースを着せてやり、黒いシャツを頭から被って同じ色のパンツを穿いたコハクは、ラスに手を差し伸べた。


「歩いて行こうぜ、脚が萎えちまうぞ。あ、萎えても俺が抱っこすっからいいんだけどさ、体力つけねえと…」


「うん……そうだね…」


手を握ってきたラスの手にはほとんど力が籠もっていなかったが、コハクは優しくその手を握り締めて部屋を出ようとドアを押して予想だにしない障害に出くわした。


「なんだよこのドア開かね……おいデス、お前なに通せんぼしてんだよ、どけどけ」


「………ラス……元気に…なった…?」


万が一ラスが突拍子もしない行動をしないようにとバルコニーには魔法で鍵が閉められていたし、唯一出入口となるドアの前にはデスが座り込んで通せんぼをしていた。

どこか不安そうな表情をしているデスの手をぎゅっと握ったラスは、弱々しい笑みを見せて小さく頷いた。

とても安心できる様子ではないが、コハクがラスを部屋から連れ出したこと自体は喜ばしいことなので、2人の邪魔をせずに再びドアの前で座り込みを再開する。


「グラースや小僧たちが会いたがってる。あいつらの顔みるときっとほっとするし、明日には部屋に呼ぼうな」


「…うん。コー…ごめんね」


「なに謝ってんだよ。謝らなきゃいけねえのは俺の方だっつーの。チビが飽きるまで謝りてえけど…ルゥは誉めてやってほしい。あいつが居なかったら…どうなってたか…」


コハクの声が震えた。

弱った姿を見せるコハクに胸が震えたラスは、唇を引き結んで泣くのを我慢すると、ちゃんと立って歩ける脚で屋上へと向かった。
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