魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
ルゥを迎えに行くと、それまですやすや眠っていたルゥはすぐにぱっちり目を開き、手を伸ばしてコハクに抱っこをせがんだ。

コハクよりも鮮やかな赤い瞳の我が子の首には、生まれた時から手に握り込んでいた水晶。

最初はネックレスにするのを嫌がったが、首にさげると安心したのかぐずることもなく手遊びをするようになった。


「シルフィードに協力してもらって風を起こしてもらうように頼んだから、俺たちが眠ってるうちにだいぶ進むはず。だんだん海の色とか泳いでる魚の色とか変わってくるし、気候も暑くなってくるから体調に気を付けろよ」


「うん、わかった。私たちだけでこんな大きな船を独占できるなんて嬉しい!コー、最高の新婚旅行になりそう!」


薄い水色のワンピースに薄手の白いカーディガンを着て、風に金色の髪をなぶられながら微笑んだラス。

何度も思うけれど…

リロイから傷をうけて2年間眠っていたので、その2年間はまるで1日しか経っていないような、そうでないような感覚だ。

そして目が覚めたらラスはなんだかものすごく美しくなっているし、大人びていた。

あんなにできなかった料理だって作れるようになっていたし、それにそんなに大きくなかった胸だって…

四肢は伸びやかで、手足はさらにすらりと長くなり、風の妖精と談笑しているラスをまじまじと見つめていたコハクは、またどきどきしてしまって腰に手をあてると大きく息をついた。


「なんなんだよ今さら…。子供まで生んでもらって結婚もしたのにこんな…まるでガキじゃねえか…」


「え?今なにか言った?」


「別にー。なあチビ、船旅は数日続くしあんまりはしゃいで疲れんなよな」


「うん、わかった。明日は私がお料理作ってもいい?」


「マジでか!めっちゃ楽しみ!」


ラスの手料理を頂く機会は滅多にないので本気で喜んだコハクは、船のあちこちで空や海を油断なく警戒している改造済みの魔物たちにちらりと視線を走らせた。

船に乗せている彼らはとりわけレベルの高い魔物たちで、些細なことであれば独断で対処してくれる。

またラスの話し相手にもなってくれるし、今もひっそりと空を飛んでいた魔物を攻撃して排除してくれていたのを見たコハクは、軽く手を挙げて魔物たちをねぎらった。


「きゃあっ、コー、人魚さんが泳いでる!人魚さんこんにちは!」


寂しくさせていた分、いつもよりももっと甘やかして、愛してやりたい。

手すりから身を乗り出して船底を見ているラスを抱っこして支えてやりながら、幸せを噛み締める。
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