魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
「ねえコー、ずっと不思議に思ってたことがあるんだけど」


ラスがオレンジを食べながら突然そう言ったので、膝の上でうにうにしていたルゥを脇に座らせたコハクは前のめりになってラスに顔を寄せた。


「ん?どした?」


「ずーっとベルルを見てない気がするの。どこに行ってるの?元気なの?」


「あー、ベルルかー。……ま、元気だと思うけど」


「え?コーもどうなってるか知らないの?ずっとコーの傍に居てくれたんでしょ?今どこに居るの?」


ラスにとっては、コハクが死んでしまったのかもしれないという絶望の淵に立たされていた時に傍に居てくれて励ましてくれた大切な存在だ。

ここ最近はずっと慌ただしくしていたので、正直ベルルと遊んだり話したりする暇も無かったのだが、落ち着いた時間を取り戻すことができた今、ベルルの行方が気にかかる。


コハクは瞬きもせずじっと見つめてくるラスから逃れられないと思って今度はソファの背もたれに身体を預けて天井を仰いだ。


「ベルルは今妖精の城で子育て中ー」


「えっ!?ベルル…結婚してたの!?」


まさに青天の霹靂。

ティアラやグラースと顔を見合わせたラスの口はあんぐり開き、それを見たルゥもラスの表情を真似たように口を開いてコハクを見上げていた。

その可愛らしさに悶えたコハクはルゥの頬にキスをしながら頷く。


「まあ、あいつもずっと独り身だったしそろそろ落ち着こうと思ったんじゃねえかな。もうここには戻って来ねえかも」


「そんなの…やだ!」


「へ?やだっつっても…あいつは元々妖精の森に住んでたんだ。勝手に俺について来てただけで、妖精はあの森で暮らすのが一番安全なんだぜ」


「でも…でも…!わかってるけどやだ!ねえコー、会いに行こうよ。私ベルルに会いたい。旦那さんも赤ちゃんも見てみたい!」


こう言い出すと、ラスは止まらない。

我が儘を言ってコハクを何度も困らせた経験の持ち主で、それにコハクが断るとも夢にも思っていないのだ。


「でもチビは身重だし…」


「まだ全然重たくないもんっ。ねえコー、みんなで旅をしようよ。リロイは無理だろうけど…ティアラは?ティアラも駄目?」


「え…私?誘って…くれるの?」


「当たり前だよ、リロイが許してくれたら一緒に行こうよ!」


ティアラの両手を掴んで離さないラスの瞳はきらきら。

これまたティアラが断るとも思っていないのか、そわそわしてルゥに笑いかけた。


「ルゥも妖精の森に行ってみたいと思うし…コー…ティアラ…駄目?」


――決まり。

誰もラスには逆らえない。
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