魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
「部屋に戻ろうか、私のプリンセス」


カイは優しくそう声をかけたが、ラスは頑なに首を振っていつも遊んでいた森の方を指した。

…ソフィーが生まれたばかりの赤ちゃんをコハクに抱かせなかったことはカイにとっても悲しいことだったが…ラスはコハクを選んだのだ。

しかもすでに不死の身となり、いつかは自分たちが先に老いて死んでゆく。

ソフィーがこんな態度を取り続ければ、ラスはどんどん距離を作って、どんどん離れていくだろう。


こんなに愛らしく育ったのに。

愛しい娘に嫌われることだけは、絶対にいやだと思っていた。


「じゃあ森で川遊びをしながら話そうか。…魔王も一緒に」


「当然だろ。俺はチビから離れねえからな」


コハクが鼻を鳴らして宣言すると、ラスがようやく小さく笑った。

その様子からこの2人は相変わらず仲良くやっているのだなとわかって頬を緩めたカイは、小川の前に着くとブーツを脱いで裾を捲り上げて冷たい水に脚を浸す。

ラスも小さい頃はこうして遊んでいたので、懐かしくなってヒールを脱ぎ捨てると、カイの隣に座って同じように診ずに脚を浸した。


「お母様のことだね?私が謝るのはおかしいことだけれど、すまないと思っているんだ。だけど私のプリンセス…君にはこの王国を魔王と共に見守っていてほしいんだ」


「でも私もう王女じゃないし…。コーと生きていくって決めたから…」


「そうだね、それはいいことだと思う。だけどラス…私やソフィーは君より先に死んでしまうんだ。いずれは会えなくなるんだよ。だけど君は生き続ける。だから時々でいいから、様子を見にここへ来てほしいんだ。勝手だとは思っているけど、君には王国を見守っていてほしい」


「お父様…。うん…そうできるように頑張るね。…お母様のことはいつか時間が解決してくれると思ってるよ。でも今は会わない方がいいと思うから帰るね。可愛い男の子でよかった。私の弟なんだから、コーと一緒に頻繁に様子を見に来るね」


にこっと笑ったラスを抱きしめるとコハクの表情が歪んだが、カイは構わずラスを抱きしめ続けて同じ金色の髪を撫でた。

…もうこれ以上老いることはないラスには永遠に幸せになってほしいし、その願いは魔王が叶えてくれるだろう。


「お母様の説得はお父様に任せて。また近いうちに遊びに来てほしい。さあ、指切りをしよう」


指切りをして約束を交わすと、またラスが嬉しそうに笑った。

そして近衛兵たちがカイを捜し回る中、親子の時間をひととき過ごして、コハクとラスは再び旅立った。
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