魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
「今度はもうちょっとゆっくり来たいね。弟も抱っこできたしよかった。絶対かっこよくなると思わない?」


「チビの弟なんだからイケメンに決まってるだろ。それよかどうする?ゴールドリバーで一泊してもいいけど」


ラスたちは取り囲まれるようにして橋を渡りながらルゥを見せびらかして歩き、船を留めている方へと向かっていた。

周囲からははじめてラスを見た者も多く、“とてもお美しい”という声が盛んに飛び交い、コハクは鼻高々になってラスの肩を抱いて見せつける。

またコハクも若い女性たちから黄色い声を浴びていたが、こちらもガン無視。


「ううん、北に行くんでしょ?早く行こうよ、雪は降ってるの?」


「山奥に行けば降ってるし積もってると思うけど。行くか?」


「うん!今度はスキーをしようよ。あとルゥとソリに乗って遊ぶの」


出航の準備を整えてくれていた改造済みの魔物たちは船内でひっそり隠れていたが、ラスたちが着くとフードを目深に被ったコート姿で出迎えてくれた。

ゴールドリバーの住人たちはここまでついて来ていて、ラスが手を振ると大きく振り返してくれる。

ソフィーが取った態度でラスの機嫌は下降気味だったが、船内の部屋に入ると地図を広げてコハクの黒いシャツの袖を引っ張った。


「コー、雪が降ってるのはどの辺?高い山の奥の方?じゃあ船はどうするの?」


「山の麓でトナカイを借りて馬車を引かせるか。俺コート持って来てねえや」


「大丈夫!コーに似合うダッフルコート買ったから。あのね、色違いで私のとお揃いなの」


いつものラスに戻ってくれてほっとしたコハクは、甲板に出てリーダー格の改造済みの魔物に地図を見せて行き先を示した。

真っ赤な鱗に覆われたリーダー格の魔物は、半円の濃紺の瞳でコハクをじっと見つめてこそりと呟く。


「妙な気配を感じます」


「やっぱりそう思うか。今から結界張って気配を完全に絶つ。お前たちも十分に警戒して、何かあったらすぐ俺に教えろ」


「わかりました」


錨を上げて出航すると、ラスは離れていく巨大な城を見つめて小さく手を振っていた。

コハクはラスの細い身体を背中から抱きしめて、同じように小さく手を振ってラスと笑い合った。
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