月のあかり
そう誘うとあかりは「えっ、えっ」と感嘆の声を漏らし、電話の向こうで小躍りしているような様子が、何となく伝わってきた。
「にゃあ」
その時、ボンネットに乗っていたあの猫が鳴いた。
それは携帯電話を通じて、あかりにも聞こえたようだった。
「あれ、そばに猫がいるんですか?」
「ああ、さっきからボンネットの上に乗っているんだよ」
ぼくが猫を撫でながらそう言うと「見たい見たい」と彼女は駄々をこねるように言った。
「じゃあ、いますぐ行きます」
高層ビルの前の通りに路上駐車しているぼくの営業車の車種を教えると、あかりはそう言ってすぐに電話を切った。
ぼくも携帯をパタンと畳んでスーツの胸ポケットにしまった。
「にゃあ」
その途端、猫はまた長い声で鳴いた。
頭を撫でるぼくの手を振り解くようにして脇を擦り抜け、ピョンと路上に飛び降りると、車の激しく行き交う道路を無造作に横切った。
「危ない!!」
猛スピードで走り去る車と猫の影が重なったように見えたぼくは、思わず身体を硬直させて目を背けた。