月のあかり
 
「あれ、猫ちゃんは?」
 
「いま、あかりが出て来た所へ入って行ったみたいだったけど、見掛けなかった?」
 
 そうぼくが説明すると、あかりは眉を下げて悲しそうな顔をした。
 
「見掛けなかったよ」
 
「そうか、残念だったね」
 
 きっと歩道と地下街の出入口の間に側溝でもあって、そこに潜り込んでしまったのだろうか?
 
 ぼくは彼女を助手席に乗せると、車をゆっくりと発進させた。
 意外な形で訪れた再会は、そのまま昼下がりのドライブになった。
 
 
「ごめんなさい」
 
 少しの沈黙を置いて、あかりが言葉を切り出した。
 
「どうしてたの?」
 
 追求するつもりはないのだが、どうしてもそういう受け答えになってしまう。
 
「ちょっと事情があって‥‥‥」
 
 あかりが言うには、3週間前のデートの後、ぼくにそれとなく相談したように、キャバクラのバイトを辞めようとしたのだが、人手の足りなかったお店側に猛烈に引き留められたらしい。
 それでも辞めさせて下さいと嘆願して出勤を拒否した彼女に対して、逆恨みしたお店側や他の女の子から、心ない嫌がらせやイタズラ電話が頻発したらしいのだ。
 
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