月のあかり
 
「こ、これは‥‥‥?」
 
 あかりがぼくの前に差し出したそれは、彼女がバイトしているお店のサンドイッチだった。
 
 
「嶋さんに食べさせたくて持って来たんだよ」
 
「わざわざ買って来てくれたの?」
 
 ぼくが訊くと、あかりはニヤッと不敵な笑みを浮かべた。
 
「注文してお金も払ったのに、作ってる最中に帰っちゃったお客さんがいたらしいの」
 
「うぐっ」
 
 ぼくは驚きの余り、気管に異物が詰まったように咳き込んだ。
 
「大丈夫?」とあかりは助手席からぼくの左肩と背中を擦ってくれた。
 
 彼女はその時、バイトの勤務時間が終わっていたので、着替える為に更衣室にいたらしい。
 
「勿体ないよねぇ。せっかく作ったのに」
 
「‥‥‥う、うん」
 
 お店では出来上がったサンドイッチを捨てるに捨てられず、社内規則上は廃棄処分しなければならないところを店長さんの暗黙の了解で、特別に誰かが持って帰ってよいとの事になった。
 当然仕事中のバイトの子たちは食べれないから、勤務が終わって帰ろうとしたあかりが、自動的に持ち帰る事になったらしいのだ。
 
「食べさせてあげる」
 
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