月のあかり
 
 あかりは、運転中のぼくの口元へ突き付けるようにサンドイッチを差し出し「はい、あーんして」なんて、まるで一昔前の恋愛ドラマのワンシーンのように振る舞ってくる。
 
 この信じられないほどの奇想天外な因果律によって、ぼくは自ら放棄したはずのサンドイッチに再会し、結局食べることになったのだ。
 
 こんな事ってあるんだろうか‥‥‥。
 
 渋々口を開けてそのサンドイッチを迎え入れると、ちょっと自棄気味に頬張った。
 
 
「あはっ、子供みたい」
 
 そう言ってあかりは助手席からぼくの横顔を覗き込む。
 子供みたいなあかりに子供みたいと言われ、ぼくは頬に溜めたサンドイッチを飲み込んだ後も、膨れっ面のままだった。
 
「美味しい?」
 
「あ、うん」と曖昧に答えた。
 
「どっちよ?」
 
「美味しいよ。でもあかりが作ってくれたらもっと美味しいかな」
 
 ぼくが意地悪く、敢えて平淡な言い方をすると、あかりは前を向いたままマネキン人形のように表情を変えず「そう」と無機質な返事をした。
 その横顔は涼し気に聞き流しているようにも見えたし、少し機嫌を損ねて、一瞬怒っているようにも感じ取れた。
 
 それでもすぐに表情豊かなあかりに戻ると、今朝は眠くて遅刻ギリギリで出勤した話や、早朝から通勤のサラリーマン相手の即売コーナーに立ち、目まぐるしく忙しかった話をしてくれた。
 
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