月のあかり
信号待ちで車を止めると、徐にこちらを向いて、カバンの中から取り出した一枚カードを、さっきのサンドイッチと同じように差し出した。
※※ マオ ※※
可愛い猫のキャラクター柄に縁取られた長方形のそれは、ゲームセンターなどにある機械でインスタントに作成出来る『名刺』だった。
『マオ‥‥』
ぼくは心の中で確認するように呟いてから口に出した。
「本当の名前はマオって言うんだ?」
「そうだよ」
突拍子もない真事実の発表劇に困惑したのは言うまでもない。
知りたくもあり知りたくもなかったこの事実が、あまりにも容易で呆気なく開示された事に対して、軽い落胆に似た脱力感と、幻想に包み込まれたような浮遊感を覚えた。
そして呼応するようにぼくの脳裏には、昨夜見たあの不思議な《ためいき色》の夢を思い出した。
確か夢の中に現れた《あかり》に似た女性は『マイ』と名乗っていた。
ぼくが見た夢と、いま突然発表された現実の情報の狭間で『マイ』と『マオ』という何となく似ている二つの名前が、戸板返しのように入れ替わる。