月のあかり
首都高に乗ってからも新たな渋滞に捕まり、ようやくこの海岸通りに到着したのは、陽が西に傾きかけてからだった。
あかりは助手席の窓におでこをくっつけて、左手の視界に広がる海を食い入るように眺めている。
夕暮れが近づいているとはいえ波も穏やかな海は、まだ深い紺碧を纏っていた。
対照的に西の空は、高層の雲を夕陽が深紅に染めている。
車内という二人きりの密閉されたこの時間の中に、少しでも長く浸っていたいぼくは、太陽が沈んでしまうのを一分一秒でも遅らせたくて、海岸通りをひたすら西へ西へと走らせた。
そうやってぼくの車が疾駆することで、紺碧と深紅の二つの異空間の境界線を、まるでジッパーのように繋ぎ留めている気がしたかのだ。
「ねえ、ねえ」
あかりは海ばかり見ていて飽きたのか、それとも単に左方向を向き続けていて首が疲れたのか、今度は身体ごと運転席向きに座り直して、「もっと景色のいい所ない?」と訊いてきた。
「うーん、そうだなぁ」
じっとぼくを見つめるあかりの視線を意識しながら、この先に何処か景色の良い場所は無いかと、フルスピードで脳細胞の記憶回路を片っ端から接続した。
「OK! 任せといて」
あった、あった、カップルがよく行くデートスポットが。
ぼくは脳裏に浮かんだその場所に向かうべく、アクセルをほんの少しだけ深く踏み込んだ。