月のあかり
一つ先の信号を右折して脇道に入ろうとウインカーを出すと、あかりは助手席のシートの上で、ビクンと魚が跳ねるように身体をビクつかせた。
信号の手前には偶然にもラブホテルがあった。
車がラブホテルを通り過ぎて信号を曲がると、あかりはぼくが冗談でラブホテルに入る振りをしたのだと勘違いしたみたいだ。
「シャーッ!」と猫のような威嚇を浴びせてきた。
「何処に行くの?」
「内緒」
ぼくが勿体ぶって言う。
「どこ? どこ?」
「景色のいい所だよ」
「だからどこぉ?」
痺れを切らして駄々をこねるように、あかりは訊いてくる。
「この先に高台があって海も見渡せるし、反対側の街の景色も見下ろせるんだ」
そう説明した後、ここはわりと有名なデートスポットだから、ひょっとしたら別の男性の車に乗せられて、すでに来たことがあるのではないかと心配になった。
それとなく過去に来たことがあるかを尋ねると、あかりは純真な子供が素直な返答をするように「ない」と答えた。
ぼくは車を目的地へ向けて、桜並木の急な勾配の山道を登らせた。
そこは神聖な領域への御正門のように、いかにも樹齢の古そうな桜の巨木が立ち並んでいる。
「この坂道は春になると、桜の花びらで敷き詰められて、一面ピンク色の坂道になるんだよ」