月のあかり
「えっ、本当?」
見たい見たいと懇願する彼女に、いまは冬だから無理だよと諭した。
そういうぼくも他人の受け売り話をしただけで、実際その時期には来たことはなく、ピンク色の坂道など見たことがなかった。
「じゃあ、また春になったら連れて来てね」
ああ、もちろん。そう答えながらぼくは不思議に思う。
音信不通になってから3週間が経ち、いきなり連絡が取れたら、ものの数分で彼女と再会出来た。
そして今度の春には、再びこの山道に桜を見に来る約束を交わしているなんて。
やがて車は山頂部の公園域になっている場所の駐車場に辿り着いた。
車を降りて公園内に入ると、そこはゴルフ場のコースのように、天然の芝生が一面に敷き詰められた小さな丘になっていた。
ぼく自身も数年ぶりに来たものだから、山頂の公園域がこんな形で整備されていたかどうかなんて覚えてかった。
そんなおぼろげな記憶と目の前のリアルな光景が融合し、季節的に枯れてしまっている黄色い芝生も、新鮮で風情のある光景に思えた。
「ねえ、ねえ、あれ何?」
あかりが何かを見つけて指を差す。
その先の小高い丘の上には3階建てぐらいの鉄骨で出来た展望台があった。
そうそう、これは昔から変わっていない。
確かにここにあった。
そしてその上から眺める景色がとても見晴らしがいいはずだ。
すると、彼女のほうからぼくの手を引っ張り、早く行こうよと歩き出した。