月のあかり
 
 芝生の丘を登り、鉄塔の下に立つと、ぼくらの他にも何組かのカップルが仲睦まじく寄り添い、鉄塔の周りに点在していることに気が付いた。
 ぼくは周囲の視線から一回り歳の離れたカップルだということを悟られたくなかった。
 毅然とした空気を纏って、彼女と手を繋ぎ、鉄塔に登るべく彼らの傍らを胸を張って横切った。
 この状況で唯一、不自然で不調和な光景をあげるなら、ぼくだけがスーツ姿のサラリーマン風だったことだろう。
 コツコツと革靴の音を、非常階段のような簡素な作りのステップに響かせ、ようやく見晴らしの良さそうな通路に辿り着いた。
 山頂部の何も遮蔽物がない場所なだけに、まともに吹き荒ぶ北風が、ぼくとあかりの頬の体温を容赦なく掠め取っていく。
 海はすでに紺碧からさらに深みを増した濃紺に変わり、西の空は一段と夕焼けの朱色を強めていた。
 
「うわ、これ凄いね」
 
 冷たい北風と遠方の景色に気を取られていたぼくとは対照的に、あかりは通路を取り巻く手摺りの金網を見て驚愕の声をあげていた。
 
「ああ、南京錠だね」
 
 そうだった。ここはおびただしい数の南京錠がぶら下がっている。
 それはすべて、ここへデートに来たカップルが、二人の永遠の固い絆を誓い託し、その思いを準えて付けていった物だ。
 
「本当にこういう場所があるんだね」
 
 テレビか何かで見たことがあった。と言って彼女はさらに感心の度を深めているようだった。
 
「ねえ、‥‥直樹さん」
 
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