月のあかり
 
「何?」
 
 久々に直樹さんと呼ばれたことに、戸惑いとむず痒い違和感を感じたけれど、3週間あった二人のブランクにいまようやく終止符が打たれた気がした。
 きっとあかりの中でも停滞していた余所余所しさの塊が、この数時間で徐々に融けていたに違いない。
 
「今度は私たちも持ってこようよ」
 
「南京錠を?」
 
「うん」
 
 あかりは上着の襟を立てて、少しそっぽを向いて返事をした。
 ぼくには襟に隠れた彼女の頬がほんのり赤く染まっているように見えた。
 それは恥ずかしがり屋の彼女らしい反応なのか、冷たい北風にふかれて赤らんだものなのか、それとも紅の夕陽に照らしだされたものかは分からなかった。
 けれどもそんな会話を交わしていること自体、二人は明確な意思確認をしていないまま、恋愛関係として付き合い始めていることを確かめ合っているようだった。
 するとそっぽを向いていた彼女が振り返ってこう言った。
 
「その時はサンドイッチ作ってきてあげるね」
 
「サンドイッチ?」
 
「さっき言ったじゃん。お店のより、あかりが作ってくれたらもっと美味しいかもって」
 
 あかりは気にしていたんだ。
 もちろん彼女の手作りのものなんて食べたことはないけれど、いい意味でのお世辞的な、それでいてぼくの願望も兼ねた軽い意味合いの言葉を。
 
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