月のあかり
「あのね、ウサギは‥‥」
「ウサギは?」と訊いて、ぼくは息を飲み込んだ。
「焚き火の中に身を投げたの」
「ど、どうして?」
「私はキツネのようにすばしっこくないし、猿のように木にも登れない。せめてこの焼けた私の肉を食べて飢えを凌いで下さい‥‥ そう言ってウサギは自ら炎の中に身を投げたんだって」
「えっ‥‥‥」
ぼくは絶句した。
「帝釈天はそんな慈悲深いウサギを不憫に思い、天へと向かい入れて月に住まわせたの」
「そうなんだ」
「でも、火に焼かれた煙の燻りが今も消えなくて、ウサギの姿は黒い模様になったまま、月の表面に滲んでいるんだって」
「悲しい話だね」
胸がキュッと苦しくなった。
冷静に考えると、それは単なる神話や童話の類いなのかも知れない。
けれど『月』と『ウサギ』の関係にそんな逸話があったなんて全く知らなかったし、思わず感情移入して、涙腺の弱い年配者のように目頭が熱くなってしまった。
「もしかして、その話が伝来して日本では餅つきしてる‥‥ みたいな話に変わったのかな?」
ぼくが推測して言うと、あかりも「多分そうだと思う」と言ってくれた。