月のあかり
「あっ、それからね」
「なに?」
いつまでも悲話の余韻に浸っているぼくとは対照的に、『月』に関するあかりの話は、次々に進展して行く。
「ウサギだけじゃなく、国によってはあの月の模様がカニに見えたり、ワニに見えたり、女の人の横顔に見えるなんて言われたりするんだよ」
「女の人の横顔?」
「そう、横顔」
「そうかなあ」
「ほらほら、よく見て」
そう言ってあかりは月を指差した。
だけどもうぼくの関心は月に描かれた女性の横顔ではなく、後ろから抱き締めたあかりの横顔を、いま世界中の誰よりも間近で見つめていることだった。
その視線に気付いた彼女は「もぉ、月を見てよぉ」とスネたように言ったけれど、そのままぼくの腕の中でクルリと振り返り、いままでに見せたことのない『大人の女』の表情で、陶酔するように目を細めた。
ぼくは前髪越しに、あかりのおでこにキスをした。
「ねえ、違う‥‥」
あかりは囁くように擦れた声で言い、目を閉じて顎を上げた。