月のあかり
「ねえ‥‥」
再びそうせがむように囁くあかりは、さらに恍惚とした表情で官能的な唇を震わせていた。
夕陽は西の山並みの陰へと完全に埋没し、凍てつく北風はさらに辺りの空気を浄化させて、漆黒の夜空の到来を否応無しに誘引させた。
ぼくたちは満月に浮かぶ貴婦人の横顔に見守られながら、熱情的なキスをした。
どちらかと言うと愛撫のような濃厚なキスに気後れし、押されているのはぼくのほうだった。
いつも純情そうに身構えていたあかりが、こんなにも積極的に唇を重ねて来るなんて‥‥‥。
そして息継ぎするようにいったん唇を離した二人は、月を主賓とした星空のページェントのもとで、再び唇を求め合った。
7
「ねえ」
あかりはまた、ぼくのスーツの左腕のシワを摘むように引っ張って、前方を指差した。
ぼくらは帰路に着く車の中にいた。
あかりが指差したのは高台に向かう時にウインカーを出し、彼女が勘違いしたあのラブホテルだった。