月のあかり
あかりは本当にそういう成り行きを望んでいるのだろうか?
ぼくは彼女の反応を窺うように、ラブホテルの数十メートル手前からウインカーを点滅させた。
ホテルの手前に着くまでの直線の道路でも、ぼくの心は蛇行した。
「いいよ、直樹さんなら」
「えっ‥‥」
ぼくは小さく出た躊躇いの声を噛み殺し、ハンドルを切ってラブホテルの駐車場へと車を止めた。
普通は逆だろう。
年上の男性が強引にホテルに連れ込み、年下の女性が不安を押し隠して同伴する。
そんな概念が引っ繰り返る状況に、ぼくは心の中で手を合わせ《おい、本当にいいのかよ!?》とお釈迦様か阿弥陀如来か、はたまたご先祖様かよく分からない仕掛人に向けて、問い掛けてみる。
当然、天からのお告げや答えが返ってくる訳もなく、ここは人間の本能に宿る獣性に付き従うべきなのかと、無理矢理自分を納得させた。
決して一人の成人男性として、性欲が薄弱だったり欠落している訳ではない。
相手があかりでなかったら、きっと猪突猛進していたはずだ。
それだけぼくにとって彼女は神聖な存在だっただけに、まるで教会の礼拝堂で姦淫行為をするような罪悪感に苛まれるのは止むを得ないのだ。
今度は心の中で十字を切って先に懺悔をした。
このままあかりとセックスすることになれば、それはそれで神の思し召しなのだろう。
ぼくらはホテルのエントランスに入ると、空き部屋表示である、ライトが付いたパネルのボタンを押して、部屋番号の印字された案内カードを受け取った。