月のあかり
カードには308と記されてあった。
エレベーターに乗ると、言い知れない緊張感と、何となく気まずく感じさせる、重い沈黙の空気に包まれた。
エレベーターの中も暖房が効いていて、小さなサウナ室のように蒸し暑かった。
3階に着くと、チーン、という到着音が鳴り、エレベーターが止まった。
「電子レンジみたいだね」
沈黙を破って、ボソッと独り言のようにぼくが言った。
「この音が?」
あかりは、ぷっ、と笑いを堪えてぼくの腕を引っ掻く真似をした。
救いようのないオヤジギャグが、意外と起死回生のタイムリーヒットになったりするものだ。
絨毯張りの廊下を進むと、一番奥に308号室があった。
「ねえ、直樹さん」
部屋の前に立つと、あかりがぼくの腕を引っ張って呼び止めた。
「お願いがあるの」
「どうしたの?」
「この部屋に入ったら、あかりじゃなくて満央って呼んで欲しいの」
ありのままの自分を受け止めて欲しい‥‥ そんな彼女のリリカルな感情が読み取れた。
「うん、分かった」