月のあかり
 
 フロントへ連絡して部屋のドアのオートロックを解除してもらうと、磨りガラス越しの満央の姿をチラッと振り返りながら部屋の外へ出た。
 
 
 駐車場の車へ行き、助手席に置き去りにされていた満央のカバンを取って来ると、再び3階に上がるエレベーターに乗った。
 
 とその時、満央のカバンの中から携帯電話の着信音が聞こえた。
 手に持ったカバンを見下ろすと、携帯電話はカバンのサイドポケットからはみ出るように挟まっていた。
 まさか満央の携帯電話を勝手に覗き見ようなんてつもりは毛頭ない。
 けれど、しつこく鳴り続ける着信音がどうしても気になる。
 衝動的にカバンごと顔の前に持ち上げると、はみ出た携帯のサブウィンドウから、発信者の名前の表示が目に入ってしまった。
 
 
 高梨 裕也
 
 
 男の名前だった。
 
 まさかぼくの他にもボーイフレンドがいるのだろうか‥‥?
 
 やがて着信音は鳴り止んだ。
 ぼくはいけないものを見てしまった気がして胸苦しくなった。
 決して故意に覗き見た訳ではないが、結果的に見てしまった事への自責の念と自己嫌悪に陥った。
 この思いが一方的な醜い嫉妬に変わらないうちに、記憶のゴミ箱に破棄してしまうほうが賢明だ。
 あかりは‥‥ いや、満央は、ぼくと抱擁と口づけを交わし、今夜まさに大人の関係へと進展しようとしているのだから、誰にも嫉妬する必要はない。
 満央はぼくだけのものだ。
 そう自分にいい聞かせて、308号室へと戻った。
 
 
 部屋に入ると明かりが消されていた。
 ただテレビの明かりだけが室内の陰影を不規則に変化させていた。
 
 ぼくは嫌な予感がして、満央の姿を慌てて捜した。
 
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