広い背中
私に覆いかぶさりながらも、一向に動こうとしない誠に、私はついにしびれを切らした。

「いくじなし」

誠の手に添えていた手を離して、その手で彼の胸を押し返した。

軽く押しただけなのに、あっさりと退く体に、初めから襲う気なんかなかったんだと知る。

誠がしていることは、いつだって正しい。

私には恋人がいるし、私と誠は友達だ。

だから、この離れた距離が適正距離なんだって分かってる。

なのに、どうしてこんなに悔しいの?

私がどんなに挑発しても、誠の理性を崩すことは出来ない。

それが悔しい。

理性の塊のような誠に、全力で求められたらどんなに気持ちいいんだろうって、いつしか考えるようになった。

いつも優しい手に、乱暴に触られてみたいって、望むようになった。

だけど、今更、私から誠を求めるのは悔しい。

だから、こうやって挑発するしか出来ないのに。

この石頭!!

私は自分のことを棚に上げて、すべてを誠のせいにした。

男のクセに意気地なし! 好きな女を何年も口説けもしないなんて、草食にもほどがあるわよ。こんだけ挑発しても何もしないし、本当に私のことが好きなわけ? 女に恥かかせてんじゃないわよ、誠のクセにーーーー!!
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