金色のネコは海を泳ぐ
『ねぇ、ルーチェ』
「何 ?」

ルーチェがもう1つの鍋の様子を見ながら蜂蜜の計量をしていると、ジュストが首筋に頬を摺り寄せる。

『僕、もう部屋に戻りたい』
「戻ればいいじゃない。私はこれを完成させないといけないから」

煮立って甘い香りを放つ鍋に蜂蜜を落とす。雫が落ちたところから波立つように桃色に変わって一層香りが強くなった。

『ルーチェと一緒がいいの。テオの薬なんか作らなくていいよ』

ペシペシとルーチェの肩を叩くジュスト。ルーチェは鍋の火を止めてジュストを机に下ろした。

「もう!わがまま言わないでよ。ジュストの薬はちゃんと作ったんだから、他に何を調合しようが私の自由でしょ?」

昨夜、テオから『明日、研修が休みだから薬を取りに来る』とボーラが届いていた。

ボーラとは泡を使った水属性の操る伝達呪文のことだ。泡に自分の声を閉じ込めて相手に送ることができ、普通は小さな金魚蜂に呪文をかけた水を入れておくことで受け取れる。

熟練した者ならば水を使わず直接相手にボーラを送ることも可能だが、できる人間は多くない。

『嫌だ!僕、テオのこと嫌いだもん!ルーチェのこと好きなのは僕だ!』

ジュストは毛を逆立てて言う。どうもテオを敵対視しているようなのだが、一体何があったというのだろう。

「はぁ……わかったから。部屋に戻ればいいんでしょ」

惚れ薬も完成したし、ジュストもうるさいし。ルーチェは急いで小瓶に惚れ薬を分けてジュストの薬と一緒に箱にしまった。

それから蓋をした箱の上にジュストを乗せて、まだ駄々を捏ねるジュストを宥めながらルーチェは部屋へ戻った。
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