金色のネコは海を泳ぐ
「オロ、そんなに怒らないでよ」

ルーチェはため息をつき、自分も片づけを始めた。

朝からずっと、診療所の研修室で呪文の鍛錬をしていたのだ。

木綿の布はそのために使っていた。例外なくボロボロになってしまったそれらは、ルーチェの出来の悪さを嘆くかのよう。

「アリーチェだって、この呪文はもう習得したのに……」

4つ年下の妹、アリーチェはまだ養成学校に通い始めて1年とちょっと。まだ実際に人間へ呪文を施すことは許されないけれど、切れ目の入った木綿の布を完璧に縫合できる。

切り傷や擦り傷など、軽い外傷を治すための呪文なのだけれど、ルーチェがやると……ゴミ箱に積まれていく布が証明するように、傷口を開いてしまうわけで。

「やっぱり向いてないのかな」

4年も養成学校に通って、初歩の初歩が出来ないなんて。ルーチェが卒業試験に落ちるのは、もちろんそのせいである。

「にゃー」

すべての布を片付けたオロは、じっとルーチェを見つめて鳴いた。琥珀色のくりくりした瞳にルーチェの泣きそうな顔が映っている。
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