金色のネコは海を泳ぐ
「現実っていうか、夢?うーん、でもオロは実在してるし……あぁ、もう!集中しなきゃ」

ルーチェはパンッと両手で頬を叩き、薬草を刻み始めた。

あとはこのオーメンタールを入れてよく混ぜれば、今作っている薬は完成する。オーメンタールは小さな可愛らしい白い花をつける薬草で、呪文や薬の吸収を促進し、効果を高めてくれるものだ。

「温度は……うん、これなら大丈夫」

オーメンタールは調合の最後、火にかけたままで葉をそのまま入れるクラドールも多いが、葉に含まれる効果促進作用成分は人肌くらいが一番溶け出しやすいようなのだ。

それで、ルーチェはいつも少し冷ましてから鍋に刻んだ葉を入れることにしている。

薬の調合は基本の煎じ方はマニュアルがあるけれど、クラドールによってアレンジを加えることがある。とくにオーメンタールのような、直接病や傷に働きかけるものでないメインの薬草を助ける働きをする薬草についてはクラドールの力量が問われるところでもある。

基本の煎じ方さえ押さえていれば、定められた効果は出るようになっている。その効能をどこまで高められるか――クラドールの腕や診療所の評判にも影響するくらいだ。

特にこのマーレ王国は国民のほとんどがそういった知識を持っているためにチェックも厳しい。

「できた!」

ルーチェはできあがった薬を小瓶に分け、棚に綺麗に並べた。

これで今日の研修は終わりだ。

使った器材を丁寧に洗って消毒し、薬草なども保存用と捨ててしまうものを分け、すべての片づけが終わったところで調合室を出た。
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