金色のネコは海を泳ぐ
「あ、お姉ちゃん!」

廊下に出ると、アリーチェに呼び止められた。

「オロ、今日も泥だらけだったよ?お姉ちゃん、なかなか調合室から出てこないから、私がお風呂に入れてあげたからね」
「そっか。ありがと」

オロはいつもより早い時間に帰ってきたようだ。ルーチェはアリーチェにお礼を言って階段を上ろうとする。だが、アリーチェが少し真剣な顔をしてルーチェを再び呼び止める。

「ねぇ……オロ、帰りたがってない?」
「え……?」

その言葉に、ルーチェの心臓がドクンと嫌な音を立てた。

「オロ、最近寂しそうにしてるの、気づいてるでしょ?」
「う、うん……でも、それは…………」

そこまで言って、ルーチェは言葉に詰まった。それは――?

確かにオロは最近妙に甘えていて、いわゆるホームシックのようなものなのだろうと軽く考えていた。

でも、オロは自力で泳いできた。それは、帰ろうと思えばルミエール王国へ自力で帰れるということだ。

何も言えなくなってしまったルーチェを見て、アリーチェはフッと息を吐く。

「まぁ……帰るならお別れ会くらいはするし、急にいなくならないでって言っておいてね」
「……うん」

アリーチェなりの気遣いなのだろうけれど、ルーチェの心には重く石が落ちてきたようなわだかまりが残った。
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