金色のネコは海を泳ぐ
「惚れ薬ぃ!?」

突然の依頼に声が裏返ってしまう。

ルーチェは目の前に座る同級生をまじまじと見つめて眉を顰めた。この少年は、冗談を言うタイプではないのだが……

「うん。お前、薬の調合得意だろ?お前がここで研修を始めてから薬の効果が上がったって、隣町まで噂が広がってる」

真剣にそう言う彼の名は、テオ・アランジ。養成学校でルーチェと同級生だった男だ。

とはいえ、ルーチェは1年卒業が遅れているのでテオは今や1年先輩――半年もしないうちに国家試験を受ける研修生だ。

短い黒髪に、平均的な身長。少し鍛えているらしく、しっかりとした腕は綺麗な白い半袖のシャツからスッと伸び、真っ直ぐルーチェを見据える少し色素の薄い瞳は真っ直ぐだ。

やはり冗談を言っているようには見えない。

テオは知識も薬の調合も、トラッタメントまで文句なし、総合成績は平均より優秀な生徒だったと思う。特別秀でているとまでは言えないものの、柔軟性もあり臨機応変に幅広く物事に対応できる。

卒業後もたまに学校に遊びに来ていたテオは卒業試験に落ち続けていたルーチェとも会っていた。ただ、それも研修を始めてからはなくなって。

それが突然、わざわざ隣町のバラルディ診療所まで来て、惚れ薬を作って欲しいなどと言い出すから驚くのも当然だろう。
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