金色のネコは海を泳ぐ
ルーチェは向かい合って座るテオを注意深く観察した。からかっているわけではなさそうだし、こんな手の込んだイタズラをする暇は彼もないはず。

「な?頼むって!」
「そう言われても……」

惚れ薬など作ったことがない。

そもそも、惚れ薬というのはクラドールの薬剤調合リストにはないものだ。迷信というか……まじないの一種で年頃の女の子がハマるようなもの。

一応、本には調合の材料や手順も載っているし、学校でもときどき同級生がやっていたのを覚えている。だが、効き目はハッキリ言ってゼロ。

「効果があった!」なんて言う女の子もいたけれど、たまたま相手もその子が好きだったとかそういうやつで。本人が幸せならばそれでいいと思うのでルーチェは何も言わなかったけれど。

ルーチェはため息をついてから紅茶のカップをとって残りを流し込んだ。コトリ、とそのカップを机に置いてから改めてテオに向き直る。

「自分で作ればいいじゃない」

テオだって、研修生なのだから薬の調合くらい自分で出来るはずだ。研修先の調合室は自由に使えるだろう。

しかし、テオはルーチェのカップを見て首を振った。

「何度もやってる。でも、効かないんだ。だからお前に頼んでるんだって」
「何度もって……」

この男、案外女々しいな……と、ルーチェは心の中で天を仰いだ。

「あのねぇ、何ヶ月もかけて効きもしないまじない薬を調合するより、サッサと告白するほうが早いわよ」
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