恋の訪れ

「あたし…死にたくない」

「は?」


助手席に乗ってポツリと呟く。

しかも、何だよこの高級車。

シートだってフワフワだし、昴先輩の車な訳?

って言っても先輩、まだ高校生じゃん。


「だって昴先輩、免許持ってないじゃん」

「持ってるから乗ってんだろーが」

「え、そうなの?」

「当たり前だろ。馬鹿じゃねーの、お前」

「だから馬鹿って言わないでよ」

「馬鹿だから26点とんじゃねーかよ」

「ちょ、そんな事言わなくていいでしょ?」


もう、いつの話だよ、それ。

しかもまだ覚えてるし。


「お前、もうちょっと頑張んねーと葵ちゃんが悲しむよ?」

「ちょ、あ、葵ちゃんて…浮かれんのもやめてよ」

「は?浮かれてんのはお前だろーが、何、美咲とケーキなんか食ってんだよ」

「み、美咲?お母さんの事、美咲って呼んでる訳?」

「だったら何?」

「偉そうじゃん。やめなよ」

「何でお前に言われなきゃなんねーんだよ」

「お母さんとか、ママって呼びなよ!」

「はぁ?馬鹿じゃねーの、お前」

「な、なんで先輩は…」


思わずそこまで言って、口を噤んでしまった。

潤む瞳が次第に涙で幕をつくり、その瞳に溜まった滴が今にでも落ちそうだった。


なのに、「俺が何?」素っ気なく返される言葉が更に苛立ちを覚える。

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