恋の訪れ
「あたしの事、すぐに馬鹿って言うんですか?」
「だってホントの事、言ってるだけだし」
「はぁ!?それに…先輩はあたしを騙してたじゃないですか!」
「騙す?」
丁度、赤信号で停まった事で、先輩はあたしの方に視線を送る。
「あたしの事、知ってたんなら言ってくださいよ」
「はぁ!?つか今まで気づかねーお前が馬鹿なんだろ」
「ほら、また馬鹿って言う…。それに昴先輩の事は見損ないました」
「は?」
「先輩は、あの時の男の子なんかじゃない!!」
張り叫んだ声とともに、一粒の涙が頬を伝った。
なんで出たのかも分かんないし、昴先輩と居るとやっぱり涙が出ちゃう。
女が勝手にないてるだけって言うけど、先輩が冷たいから泣いちゃうんだし。
そんなあたしから昴先輩は眉を寄せながら首を傾げる。
赤から青になった信号で、再び車が動き出した。
「って言うか、お前いつの話してんだよ」
「昔の話です。あの時の男の子は凄く凄く優しくて好きでした。でも、先輩はあの時の先輩なんかじゃない」
「あー…はいはい。昔は昔。今は今、だかんな」
「だから認めたくないんです」
「じゃあ別に認めなくてもいいんじゃね?」
「もー…ほんと嫌い」
「……」
不意に呟いてしまった言葉とともに、頬を膨らませる。
さっき一滴を流してしまった頬は既に乾ききっていた。
そんな頬を摩り俯く。