恋の訪れ
「着いた」
暫く経って昴先輩が小さく呟く。
そんな言葉を無視して、ずっと佇んでるあたしに、
「おい、着いたっつってんだろ」
昴先輩は面倒くさそうに言う。
だから意地でも帰ってやんないって、思った。
いや、そうじゃなくて肝心な事は何も聞いてないから帰れない。
「帰んない」
「あ?」
「だから帰んないって言ってんの」
「つか俺、急いでるって言わなかったっけ?」
「だって、あたしまだ先輩に聞きたい事、山ほどあるんです」
「まー、それはまた今度で。てか早く帰んねーと諒也さん心配すっから」
はぁ?とでも言いたくなるような言葉に思わず眉間に皺を寄せて昴先輩を見る。
そして視線は車の時計に移した。
「まだパパは帰ってきてないし。しかもまだ18時35分だし」
「じゃあ葵ちゃんが心配すっから」
「しません」
「つーか、お前が帰らなかったら俺が問い詰められんだからな、美咲に!」
「そんな事、知りません」
「つか、ともかく帰れよ…葵ちゃん、心配すっから」
って言うか、何なの昴先輩って。
葵ちゃん、葵ちゃんって、葵ちゃんが心配するからって、先輩は何も知らないじゃん。
そもそも何で、あたしだけいつもそんな風に言われてんのかが分かんない。
昴先輩に視線を向けると、ため息を吐き捨てながら携帯を触ってた。