恋の訪れ
その苛立ちは次の日まで持ち込んでしまった。
「莉音、おはよ」
「おはよ」
朝ごはんの支度をしながら笑みを漏らすママに素っ気なく返し、深いため息を吐いた。
「あ、そうだ。莉音、昨日、美咲の家に行ったんだって?昴君の事でごめんねって美咲が言ってたけど。また莉音、何か言ったんじゃないの?」
「何も言ってないし!むしろこっちが…」
言われまくりなんだから!って言葉は飲み込んで、再びため息を漏らす。
そんなあたしとは知らずママは「え、何だって?」なんて呑気な事を言うから思わず顔を顰めた。
そして。
「何日か前にね、美咲んち行ったら、昴君に出会ってね。久々すぎてビックリだった。物凄い男前じゃない。かなりモテるんだろーね」
なんて、ママは最高の笑みを漏らす。
だから半分ヤケクソみたいに目の前に置かれたパンを頬張った。
「ってか、ママ知らないでしょ?」
「何が?」
…女泣かせるの、好きなんだよ。
なんて言えるわけもなく、「別に…」と適当に返す。
「でも、ほんと素敵な男の子って感じだね」
「は?」
ママ、頭おかしいんじゃない?
「もぅ、翔さんの若い時にそっくりだった」
「え、美咲さんの旦那さんに?」
「そーだよ。すっごいイケメンだったんだから。優しくて素敵な人。だから昴くんも、そんな感じなんだろーな」
浮かれてるママにこれ以上、何も言えない。
確かに先輩のパパは物凄い紳士な人でカッコよかった。
でも、翔さんって人と昴先輩を一緒にするのは間違ってる!
先輩は全然優しくないし、優しさの欠片すら何もないんだから。