瀬々悠の裏事情

「じゃあ、そろそろ帰りやす」

「もう?なら外まで送ります」

「ああ、お気になさらず。ってか千秋さんも、そろそろ仕事しないとまずいッスよ」

「ぎくっ」


条件反射と言わんばかりに、千秋の肩が跳ねる。

「なんだお前、サボってたのか」

「うわーん!どうか部長にはご内密に…!!」

「それは構わないが、里歌ちゃんにはシバかれるぞ。ほら」


南雲が指差した場所は調停部の入口。
そこには壁にもたれながら、妙に威圧的な笑みを浮かべてる里歌の姿があった。
どうやら千秋を待ち構えているらしい。


「バレてるー!?」

「自業自得ッスね」


戦々恐々としている千秋を横目に、瀬々は鼻で笑う。


「た〜ち〜ば〜な〜?」

「ひぃぃいいい!ごめんなさいぃい!」

「逃がすか!!」


里歌は逃げ腰の千秋に素早く近付き、彼の肩にがっつりと腕を回す。
逃げる間もなく捕まった千秋は、痛い痛いと喚いているが、周囲はその光景をただ笑って見ているだけだった。
もしかしたらこの二人のやり取りは、局員にとって馴染みの光景なのかも知れない。


「全く。橘は相変わらずだな」

「でも嫌いじゃないッスよ。ああいうの」


調子はいいが人懐っこく、どこか憎めない千秋の性質。なりふり構わず挑発的な態度で毒付く自分に比べれば、どんな環境でも適度に順応出来るだろう。


「近いうちにまた来ます。お土産、ありがとうございました」

「こっちこそ、大したもてなし出来なくて悪いな」


悪びれる南雲に、瀬々は頭を横に降る。


「いいんスよ。仕事中なんスから」


ここには依頼達成の為の手掛かりを得に来たわけであって、端からもてなし目当てで来たわけではない。
それに千秋から受け取った情報は、手掛かり以上の報酬であり、瀬々からすればそれが十分なもてなしである。


「今度ヴィオレットにでも食べに行きましょうよ」

「お、良いな。空いてる日が分かったら連絡するわ」

「了解ッス。それじゃ」

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