瀬々悠の裏事情

藍猫 休憩室


「うん。申し訳ないけど、頼むね」

用件を伝え、後輩にして同居人である瀬々からの電話を切る。
話の内容と普段よりやや高めの声色からして、それなりの収穫はあったのだろう。
それは喜ばしいことではあるのだが、智昭は心なしか溜め息を零した。

「おや。溜め息を吐くなんて、いけないね。せっかくの幸せが逃げてしまうよ」

「好きで吐いてませんよ」


気が重くなりながらも、智昭は平静として素っ気なく言葉を返す。
しかし目の前の男は何を言うわけでもなく、金に近い栗毛色の前髪を揺らしながら笑みを浮かべ、ただこちらを様子を見ているだけだった。
彼はアーネスト・ウィンコット。
数多いる探索系統の異能者の中でも、飛び抜けた実力を持つ、情報の才子と謳われる天才。
そして三代目・弥三郎を継いだ元藍猫の社員であり、すなわち智昭にとってかつての上司である。
そして現在は新たな頂点と共に再起したチーム・オルディネに所属している。


「区切りがついて、やっと休憩だと思った矢先にこれですよ」

「なら遠慮せずに休むといいよ」

「そうしたいのは山々ですが、あなたがいると休まる気がしないんです。狙って来てます?」

「まさか。社長に呼ばれたんだよ。そのついでに、君の顔を見ておきたかったんだ。他意はない」


断言すると、アーネストは手に持っていた缶コーヒーに口をつける。
何気ない動作だが酷く整った顔立ち、落ち着きを払いつつ華やかな雰囲気を纏ったその姿を相まって、優美に見える。


「こうして会うのは久しぶりだね。相変わらず元気そうで安心したよ」

「あなたの方こそ。いつ見てもお変わりないようで、何よりです」


出会った当初から、何ら変化のない艶やかな容姿を一瞥しながら言葉を返せば、アーネストは優しく微笑んだ。


「私だって多少は変わっているさ。君みたいに成長はしないけど」

「成長って…俺もう三十路ですよ」

「おや、そうなのかい?」

「そうですよ。あれから何年経ってると思ってるんです」


目を丸くして驚いた表情を浮かべるアーネストに、智昭は半ば呆れを含んだ眼差しを向けた。

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