瀬々悠の裏事情
智昭がアーネストと最後に会ったのは、後任として四代目・弥三郎を襲名した十四年前のことだ。
いつものように、アーネストの後ろを付いて歩いていた何気ない暑さが続いた夏の日。
ふと振り向いた彼に告げられたある言葉。
当時の智昭はその意図が分からず、また大したことではないとその意味を問い質すこともしなかった。
それから間もなくして、秋の訪れと共にアーネストは去っていった。
あまりに衝撃で唐突なことで、今でもよく覚えている。
「確か十四年だったかな。君はまだ高校生で、反抗期だったのか今では想像し難いほど、やさぐれていた」
「……はぁ。ちゃんと覚えてるじゃないですか」
「もちろんさ。可愛い後輩を忘れるわけがないよ」
さも当然と言わんばかりに答えるアーネストに、智昭は嬉しさと不可解さで複雑な心境に包まれる。
アーネストが藍猫を去ってからというもの、今の今まで会うことはなく、更には連絡すらなかったからだ。
確かに仕事上で接触することは幾度かあったが、それらは全て社長を通してであり、直接的な関わりは一切なかった。
「そうですか……てっきり、もう忘れられてると思ってましたよ」
「まさか」
呟きにも似た言葉に、柔らかい口調でアーネストは答えた。
それに対して、智昭は何とも言えない表情を露わにした。
「不服そうだね」
「別に」
「…寂しかった?」
「まさか」
アーネストの問い掛けに、思考よりも早く口が走る。
自分でも驚くほどの即答ぶりに一気に気まずくなって、おもむろに目を逸らす。
「ふふ……言葉の真偽を問い質したいのやら、力を使えばいい。心を読み取ることなど、君には容易いだろう」
目の前にいる智昭を見据えながら、アーネストは試すような口調で、愉しげに促す。
確かに自分の異能を使えば、彼の心情はおろかその思惑すら汲み取ることが出来るだろう。と智昭は思う。
だがーー。
ーー力を使って見たところで、その全てを
ーー理解することは出来ない。
ーーこの人はそういう人だ。
ーー何考えてんのか分からない。
ーー相変わらず………。
それは過去の経験からか、あるいはそれを元に自分なりに彼を理解していたからなのか。
何か裏があるのではと勘繰ってしまい、智昭は促されるまま異能を使おうとは思えなかった。
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