瀬々悠の裏事情

智昭がアーネストと最後に会ったのは、後任として四代目・弥三郎を襲名した十四年前のことだ。
いつものように、アーネストの後ろを付いて歩いていた何気ない暑さが続いた夏の日。
ふと振り向いた彼に告げられたある言葉。
当時の智昭はその意図が分からず、また大したことではないとその意味を問い質すこともしなかった。
それから間もなくして、秋の訪れと共にアーネストは去っていった。
あまりに衝撃で唐突なことで、今でもよく覚えている。


「確か十四年だったかな。君はまだ高校生で、反抗期だったのか今では想像し難いほど、やさぐれていた」

「……はぁ。ちゃんと覚えてるじゃないですか」

「もちろんさ。可愛い後輩を忘れるわけがないよ」


さも当然と言わんばかりに答えるアーネストに、智昭は嬉しさと不可解さで複雑な心境に包まれる。
アーネストが藍猫を去ってからというもの、今の今まで会うことはなく、更には連絡すらなかったからだ。
確かに仕事上で接触することは幾度かあったが、それらは全て社長を通してであり、直接的な関わりは一切なかった。


「そうですか……てっきり、もう忘れられてると思ってましたよ」

「まさか」


呟きにも似た言葉に、柔らかい口調でアーネストは答えた。
それに対して、智昭は何とも言えない表情を露わにした。

「不服そうだね」

「別に」

「…寂しかった?」

「まさか」


アーネストの問い掛けに、思考よりも早く口が走る。
自分でも驚くほどの即答ぶりに一気に気まずくなって、おもむろに目を逸らす。


「ふふ……言葉の真偽を問い質したいのやら、力を使えばいい。心を読み取ることなど、君には容易いだろう」


目の前にいる智昭を見据えながら、アーネストは試すような口調で、愉しげに促す。
確かに自分の異能を使えば、彼の心情はおろかその思惑すら汲み取ることが出来るだろう。と智昭は思う。
だがーー。

ーー力を使って見たところで、その全てを
ーー理解することは出来ない。
ーーこの人はそういう人だ。
ーー何考えてんのか分からない。
ーー相変わらず………。

それは過去の経験からか、あるいはそれを元に自分なりに彼を理解していたからなのか。
何か裏があるのではと勘繰ってしまい、智昭は促されるまま異能を使おうとは思えなかった。

.
< 61 / 70 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop