瀬々悠の裏事情
「……使いませんよ」
「それは残念」
揺れる心を無きものとして、軽い拒絶を口にする。
アーネストは言葉とともに、少しだけ眉根を下げて残念そうに笑みを浮かべた。
それは意図的なものではないのだろう。
しかしどうしてだか、智昭は自身の思考や感情を見透かされているような気がしてならなかった。
目の前の男に、自分のような他者の心を読むことなど持ち合わせていないはずなのに。
――この人はいつもそうだ。
――全てを見透かして、知っているように魅せる。
「それで、社長に何で呼ばれたんです」
複雑な心境と、徐々に感じ始めていた居心地の悪さを振り払うようにして、智昭は話題を替え尋ねた。
「大したことじゃないよ。依頼の対価を渡しにきただけ。あと藍猫に戻って来ないかと言われたかな」
「ああ、まだ諦めてなかったんですね」
必死に請う社長の姿が容易に想像できて、智昭は半ば呆れる。
現在の藍猫に超一流の情報屋という確固たる地位があるのは、アーネストを筆頭とする三代目、つまり先代達の輝かしい活躍のお陰である。
彼らが前代未聞の依頼数を的確にこなし、依頼人の信頼を得て藍猫の名を瞬く間に轟かせたからこそ、現在があるのだ。
特にアーネストは歴代最高の依頼達成記録を樹立し、未だに破られていない。
「最近やや業績不振なんですよ。うち」
「そうだろうね。昔に比べて周りに追い立てられるようだし。けれど断らせてもらったよ。今はオルディネを離れるつもりはないから」
ほほ笑むアーネストの傍ら、智昭はその様子を横目で捉える。
「ってことは、いずれ離れるんですね」
「答えを見つけられればね」
「答え?」
「そう。答え」
相槌を打つだけで、アーネストはそれ以上答えようとはしなかった。
――つまりオルディネに戻ったのは、ただの気紛れではないと。
――何か理由があるのか。
思考を巡らせようとするが、智昭は自らに制止を掛ける。
考えたところで自分に分かるはずもないと言い聞かせて。
「藍猫の業績不振についてだけど、言わずもがな慢性的な人手不足が原因ではないかな」
話が戻り、智昭は顔を上げる。
「やっぱりそう思います?」
「私達の代でも苦しかったからね。現在の藍猫でもこなせる数は限られるだろう。オルディネの子供達に話したら、ブラックだと言われたよ」
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