瀬々悠の裏事情
智昭宅
「まったくもー!先輩もアーネストさんがいるなら言ってくれればよかったのに!そしたら、野菜も三人分買ってきたッス!」
鍋で煮立つ野菜を見つめながら、瀬々は頬を膨らませてそう言い放った。
「いや…すぐ帰ると思ってて」
「鍋と聞いて帰るわけにはいかないさ」
優雅な横顔とは裏腹に、瀬々と同じく野菜から目を逸らさないアーネストがそう返せば、智昭は溜め息を吐く。
話も仕事もあらかた片付き、あとは帰宅するのみとしたところ、アーネストが唐突に空腹を訴えてきたのだ。疑問に思ったのも束の間、彼の前で瀬々と電話の内容を思い出した。
それが顔に出ていたのか、アーネストは察したように微笑んでいた。
智昭は悪意しか感じないその笑顔に内心苛立ちつつも、彼が和食好きであったことを忘れていた自分を無性に殴りたくなった。
「オルディネで食べればいいじゃないですか」
「そうしたいけれど、あいにくオルディネは洋食中心でね。和食になかなかありつけないのが現状なんだ」
「それあかねっちも言ってたッス。和食が食べたい時は外だって」
「あかね嬢もどちらかと言うと和食寄りだからね。バラエティーに富んでいるのはいいのだけれど、和食の献立も少しは欲しいものだよ」
実に嘆かわしいと言わんばかりのアーネストだが、手に持つ箸は止まることがない。
見かけによらずそれなりに食べるようだ。
「集団生活も大変ッスねー。俺には無理ッス。まぁ和食が食べたくなったら、いつでも来て下さいね」
「ありがとう」
目の前で和やかに言葉を交わす二人に、智昭はまた溜め息を吐いた。
そもそもここは自分の家で、勝手なことを言わないで欲しいのだが、それを言葉にすることは出来ず、ただ黙ってそのやり取りを聞く。
「にしても今日は新旧弥三郎が揃ってやすからね!色々聞いちゃいますよー!!」
珍しくテンションが高く興奮気味の瀬々。心なしか目が輝いている。
「まずまずー!アーネストさんはどうして藍猫に入ったんスか?」
「食い扶持が欲しかったからかな」
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