瀬々悠の裏事情

顔に似合わず、現実的な答えが返ってきて瀬々は目を瞬かせる。

「苦労してたんスか?」

「人並みにはね。あとは人脈を広げる目論みもあったかな。独立しても仕事が出来るように」


入社当初から独立を視野に入れてたことに智昭は思わず呆れそうになる。

――でも一緒に仕事をしていた時も業務は完璧にこなしていたが、積極性は無かったか。
――割と放任主義だったし、軽い仕事は押し付けられるし。
――たぶん藍猫に対して思い入れも大して無かっただろう。


「じゃあ次はー。どうして智昭さんを後任にしたんスか?」

「単純に彼がいいって思ったからかな。最初はそのつもりはなかったんだけどね。だって当時の智昭は融通が効かなくて」

「よく言いますよ。人のこと散々振り回しておいて」


若干睨みながら智昭が言えば、アーネストは軽く微笑んで受け流す。


「あの頃の智昭は、むやみやたらと人の心を覗いては悪態まで吐いちゃうから、依頼人を怒らせてしまうことなんてよくあったんだよ」

「先輩もやんちゃな時期があったんスね」

「違うから。あっても瀬々ちゃんよりマシ」

「うわーあやしー」


瀬々と智昭のやり取りを見て、アーネストは微笑む。


「確かに手を焼いた時期もあったけど、可愛かったよ。嫌味を言いつつもフォローしてくれるし、仕事もするし……ね」

「そうなんスか?」


そう言って目配せをするアーネストとこちらをじっと見つめる瀬々に、智昭は気まずさのあまり目を逸らす。


「まぁ……仕事に関しては、一応…尊敬してたし」


言葉を詰まらせつつも答えれば、視界の端にいるアーネストはどこか嬉しそうであった。その様子が悔しくて、素行は褒められたものではないと内心毒吐く。


「ふむふむ。つまり先輩はアーネストさんが大好きと」

「どうしてそうなるの」

「え、違うんスか?」


真顔で問われ言葉を失う。すると着信音が鳴り響いた。

「こんな時間に珍しいッスね。誰ッスか?」

「ねねさん…」


智昭は間を開けずに携帯を耳元に宛てた。


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