瀬々悠の裏事情

「ねねちゃんか……懐かしいね」

席を外した智昭の姿を見送るとアーネストは静かに呟いた。


「知ってるんスか?」

「もちろん。後輩だったからね」

「あぁ……そうッスよね」


くだらないことを聞いたと思いつつ、瀬々はある疑問を口にする。


「あのー……」

「ん?」

「先代ってどんな人達だったんですか?」


アーネストはゆっくりとこちらを振り向いた。


「三代目かい?」

「あ、はい」

現在の藍猫において正規社員は智昭とねね、それからクロードが該当する。
だが当然ながら彼らの前にもそれに該当する人物がいたわけで、特に先代である三代目は藍猫を今の地位に押し上げた英傑と言っても過言ではない。
瀬々は好奇心と探求心から、この機を逃す手は無いとして目の前にいるその英傑に問い掛けたのだった。


「先輩達に聞いても全然教えてくれなくて。それに同僚だったアーネストさんなら先輩達以上に知っているんじゃないかなって」

「そうだね。夜見とケリーは私に負けず劣らず優秀だったけど、クセのある子達でね。夜見は気に食わないことがあると仕事をしなくなるし、ケリーは気が強過ぎて依頼人と殴り合いにな
ることもあったよ。あと二人ともかなり酒好きで、仕事終わりはよく付き合わされた」

「……へー」


想像とはかけ離れている人物像に、瀬々はかろうじて相槌を打つ。


「でも私としてはとても好きだったよ。智昭のことも可愛がってくれていたから。だから、あんなことになってしまったのは実に残念だと思っている」

「え?」

「君はどうだい?智昭が言うには、相当苦労しているみたいだけど」

疑問が浮かんだのも束の間。それを口にすべきか迷っていると掌を返すように話題を変えられてしまった。


「ええと…まぁ、その……ぶっちゃけ首が飛びかけてます」

「意外だね。私の見立てでは、君はなかなか逸材だと思ったのだけれど」

「はは……自分でもそれなりに自信があったんスけどね」


認められなければ、評価されなければ意味がないのだ。
たとえ個人として納得がいかなかったとしても。



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