闇夜に真紅の薔薇の咲く
**。




「……ら。…な……ひら。……――花片!」

「っ!!」






弾かれるように目を開けると、眼前には呆れたような表情をしている数学の教師、安西雅(アンザイ ミヤビ)の顔があり、朔夜の表情は引きつった。





何故よりにもよって数学の時間に寝てしまったのか。





安西雅は霞高で一番若い教師である。





容姿端麗で女子生徒に人気があり、休み時間などになるといつも女子に囲まれ彼の周りは常に騒がしい。





そんな彼は、授業中などに眠っている生徒などを見つけるとかなりの量の雑用を押しつけると言う厄介な性格の持ち主で、男子生徒とごくごく一部の女子生徒に怖がられている。





朔夜は“ごくごく一部の女子生徒”の一人で、苦手な数学はいつも寝て過ごしていたのだが、高校になり頑張って起きているようにしていたのだけれど……。






ちらりと雅に視線をやると、彼は教科書片手に意味ありげな黒い笑みで彼女を見下ろし、視線が会うや否や小首をかしげて見せた。








「花片。お前、放課後雑用決定な」

「……」

「返事は?」

「…………はい」








女子の黄色い悲鳴がうるさい。





朔夜は逆らえない彼の笑顔に渋々頷くと、雅はよろしい、と輝かんばかりの美しい笑顔を浮かべて教卓に戻って行く。





それを見届け、朔夜は机に勢いよく突っ伏した。







「さいっあくだ~……」






何故よりにもよって数学。





何故よりにもよって今日。





心なしか上機嫌に授業を進める雅を恨めしげに見ると、彼は気づいているのかいないのか、教卓に立ち満面の笑みを浮かべる。





恐らく、今朝女子たちとした約束は果たすことは出来ないだろう。





放課後と言うことは、好きなだけ雑用を押しつけられる。





以前、偶然雅の餌食となった生徒の話しを聞いてしまったのだが、恐ろしいほどの雑用を押しつけられ返るのはとても遅くなったらしく、その生徒の表情は酷く疲れ切ったものとなっていた。





それを思い出し、背筋に寒気がはしる。





一体どれぐらいの量の雑用を押しつけられるのだろうか。





闇はあまり好きではないから、明るいうちに帰ることができればいいのだが……。






満面の笑みを浮かべて授業をする雅をうんざりとしたように見つめ、朔夜は憂欝そうにため息を漏らした。












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