闇夜に真紅の薔薇の咲く
今までに感じたことのない恐怖に、押しつぶされそうになるのを懸命にこらえながら、ふと思う。






もしかしたら、ここは夢の中ではないのだろうか、と。





夢だから彼らの声が聞こえて、夢だから見覚えのない場所に立っている。





今朝だってそうだったではないか、と半ば無理やり話しをひっつける。






すると、彼女の心の中を呼んだのか上空から響く声はくすくすと笑った。







『何をおっしゃりますか。これは夢ではありませんよ。紛れもない現実』

『我らの力で、あなたを扉の元まで連れて来たまで』

『何を脅えておられるのです。何も恐ろしいことなどありません。あちらではあなたの帰りを待っている者が五万とおります』







交互に話すその声に、戦慄を覚える。





夢でないわけがない。こんなことが現実に起こり得るはずがないではないか。






扉? 何のことだ。






自分を待っている者? そんな者、家族と友人以外に誰がいる。






彼らが言うあちらは、きっと友人や家族のことではない。





闇の国とやらの住人のことをさしているのだろう。





意味が分からない。





彼らの言葉の全てが理解できない。





分かることと言えばただ一つ。





彼らが人ちがいをしていると言うことだけだ。








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