闇夜に真紅の薔薇の咲く
彼らは朔夜のことを“姫君”と呼ぶ。





けれど、彼女はもちろん姫君なるものでは当然ない。





ごくごく普通の女子高生である。





そのことを伝えなければと、勇気を振り絞り声を発した。







「――わ、私は、姫君なんかじゃない」

『何を御冗談を』







男性が呆れたような笑みを僅かに含んで胡乱気に言う。







彼らは朔夜を姫君と信じ切ってしまっている。






説得するのは、とても難しいかもしれない。






ため息をつきたい衝動にかられながら何とかこらえて、いつの間にか回らなくなった夜空を見上げた。








「冗談じゃない。私は本当にお姫様じゃない。普通の高校生よ」







分かって、と彼女は内心で訴える。






嫌な予感がするのだ。その嫌な予感を消すためには、彼らの間違いを正さなければいけないような気がした。






訴えるようなまなざしを空に向けると、姿の見えない者はくつくつと喉で笑う。








『あぁ。そう言うことですか。あなたは、まだ姫としては不完全なのですね』

「っ、だから! 私は姫じゃないって……っ!!」

『いいえ。あなたは姫です。我らが千年もの間待ち続けた、美しき姫』






< 21 / 138 >

この作品をシェア

pagetop