闇夜に真紅の薔薇の咲く
朔夜は思わず彼を凝視する。





つい先ほど、彼に手を振られたことは今でも鮮明に覚えていた。





見知らぬ者に手を振られたから印象に残っていた、と言うのもあるが何よりもあの浮世離れした美貌を忘れるはずがない。





斗也は女子の悲鳴に戸惑ったように麻生を見ると、彼は肩をすくめて二度手を叩いた。





あまり大きくないにも関わらず、一気に室内はしんっと水を打ったように静まり返る。




静かになった教室を一度確かめるようにぐるりと見渡し、麻生はため息を零すと教卓に両手をついた。







「お前らなぁ……騒ぎたい気持ちもわかるが、今は静かにしとけ。俺のためにも」







きりりとした表情でメガネを押し上げる彼の言葉に、クラスメート達は脱力する。



朔夜ももちろんその一人で、頬杖をついて窓の外に視線をやった。




自分たちの担任は少し変わっているのだ。




自分の損得で動くことを隠そうともせず、変に生徒に媚を売ったり善人ぶったりしない。




何事にも無関心そうにみえて、意外にしっかりと色々なことを考えている彼は生徒たちにはかなり人気がある。




呆れ果てて何も言えなくなったクラスメートたちに、何を勘違いしたのか麻生は満足げに頷くと空いている窓側の前から三番目の席を指し示す。








「月影の席はあそこだ。分かったか?」

「はい」







にこやかに応じて、彼は席へと向かう。




その際、一瞬目が合い突然のことで驚いて息をつめると彼は先ほどと変わらぬ笑みを浮かべた。










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