ダブルスウィッチ
もう一度カプセルに目をやると、えみりはようやく騙されたことに気づいた。


最初から甘い結婚生活など存在しなかったのだ。


確かに彼女はそうだとは言っていない。


えみりのように愛されたいとは言ったけれど、自分の生活に不満があるようなことも言っていなかった。


『自分の立場に満足してないんじゃないですか?』


彩子の言葉が脳裏に浮かぶ。


都合のいいようにえみりを誘導して、入れ替わることを承諾させたのだ。


彼を手に入れたと思ったのは間違いだった。


えみりは自慢の容姿も声も、亮介に愛される資格さえも彩子に奪われたのだ。


妻など名ばかりで、亮介の身の回りの世話をする家政婦みたいな存在。


当然会話などなく、きっとセックスもない。


えみりは愕然とした。


愛されていたのはえみりの方だったのだ。


なんの価値もない彩子に嫉妬して、彼の全てを手にいれようと欲張った結果がこれだ。


どうしようもない不安が胸を渦巻いて、えみりは体が震えるのを感じた。


このまま戻れなくなったら……


そう思うだけで怖くなる。


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