ダブルスウィッチ
不思議そうな顔でこちらを見る彼に、えみりは思わず言っていた。


「あの……お礼をさせてください」


一瞬、目を見開いた彼はすぐに大人の顔に戻って、マニュアル通りの言葉を口にする。


「いえ、お気持ちだけで結構ですよ?

ありがとう」


「で、でも!

私の気持ちがすまないっていうか……」


必死に引き止めるえみりに、彼は困惑した表情を浮かべていたけれど、やがてフッと顔を緩ませた。


胸元に手を滑らせ何かを取り出すと、えみりの前にそれを差し出す。


テーブルに置かれたそれは、彼のものだろう名刺だった。


これはどういう意味だろうか?とえみりは名刺から彼に視線を移した。


「ごめん、これからちょっと行かなきゃならないところがあって……

だからもしどうしてもって言うなら、そのアドレスにメールして?

電話だと出れないことが多いから」


「いいんですか?」


思いがけず彼の連絡先を知ることができたえみりは、嬉しさで顔の筋肉が弛むのがわかった。


「うん、大丈夫だけど……

ほんとに無理しなくていいからね?

その名刺も捨ててくれてかまわないから」


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