ダブルスウィッチ
もし、自分だったならあのとき彼を受け入れていなかったかもしれない。


事実、元の体に戻ってから、彩子は亮介と一度も交わってはいないのだ。


あの日、えみりの身体で亮介に抱かれた時、嫌というほど彩子は思い知った。


自分に求められているものがなんなのか、女としてではない妻という立場なんだということを。


だから、彩子は決めたのだ。


もし、元の体に戻れたなら、妻として仕事のパートナーとして、亮介を支えていこうと。


女の悦びなど、もうとうに捨てていた。


えみりに触れる亮介は確かに亮介なはずなのに、彩子の知らない顔をして、彩子の知らない声で、指で、えみりを慈しんでいたのだから。


結婚してから一度も、身体を重ねる時でさえ義務のような、そんな悲しいものだ
った彩子にとって、あの出来事はそのくらい衝撃的なものだった。


だから、彩子はえみりに負けない土俵で亮介に必要とされようとしたのだ。


そこに訪れた妊娠という事実。


亮介が彩子の中で果てたという証。


あんなに焦がれても叶わなかったそれは、あっさりとえみりに奪われたのだと、複雑な思いが彩子を支配した。










< 271 / 273 >

この作品をシェア

pagetop