地方見聞録~人魚伝説譚~
「レト」
「わっ」
岩場に座っていたレトは、少々慌てた様子を見せた。何か手から滑り落ちそうになったらしい。
それは落ちることなく己の手におさまり、ほっと胸を撫で下ろす。
悪かった、とすぐそばに腰をおろす「それは?」
「紅よ。貰い物だけど」
「……ひかないのか?」
「何か勿体なくて」
「貸せ」
返答を待つまえに、レトの手の平にえさまっていた小さな容器を掴む。紅色。
「ヨウがひくの?」と言うレトに、苦笑。何故男の私が紅をひかねばならぬのか。