地方見聞録~人魚伝説譚~
動くな、と先に釘をさし、己の指に紅をすくう。そして、レトの口唇へのせていく。
肩が跳ねたが黙っているのを見ると、何だかおかしい―――――。
彼女が己のために、紅をひいてくれれば良いのに。
「紅をひかずとも、磨かれた珊瑚のようだがな」
素直な感想だった。
だから「女たらしみたい」と顔をまっかにさせて顔をそむけた理由は、よくわからない。だが照れているのはわかる。
どうしたものか。
触れてしまいたくなるが、まだ。その前にやることがある。