荒れ球リリーバー
セイの映る液晶画面を直視出来ず俯く私は、鼻の奥がツンッと痺れる感覚を覚える。

唇を噛み締め、膝の上でギュッと握った震える拳を見る視界は、瞬く間に滲んで行った。

公衆の面前で涙が零れ落ちないよう瞬きを我慢していると、それでも聞こえるテレビからの音声。

『その人は、僕が辛い時も悩んでいる時も隣で支え続けてくれました』

誠一郎と彼女が仲睦まじく寄り添う姿を想像して、いよいよ涙が我慢出来なくなる寸前の事だった。

『僕が野球を始める前からずっと』

形の整った薄い唇から紡がれる付け足され言葉。

「野球を…始める前から…?」と復唱して顔を上げ、頑なに見ようとしなかった画面を見る。

小学校低学年から野球を始めた誠一郎。
生まれ付き奴と幼馴染みの私。

私の、そしてきっと液晶画面の中でお立ち台に佇む男の野球を始める以前の記憶の中にも、例の女子アナの姿はないと思う。

それなら。ねぇ。誠一郎。

一体、誰の事を言っているの?

荒れ球リリーバーと呼ばれる貴方の心は、誰を想い描いているの?
< 149 / 167 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop